【現地リポート】DGに泣いた日本の収穫、負けたようなウェールズの消沈

前半37分、WTB山田章仁選手のチーム初トライ。その後の展開に勢いを与えました。

 

ウェールズ33−30日本。ウェールズ22番SOサム・デービス選手のドロップゴール(DG)に日本は泣き、ウェールズは救われました。日本代表が勝てた可能性も当然ありましたし、引き分けの可能性ならもっと高かったでしょう。ここまで力の拮抗した接戦を真に予想していた方は、国内外にどれだけいたでしょうか。ウェールズ代表ロブ・ハウリーHC代行は試合後の記者会見でこう語っています。

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「フラストレーションよりも安堵の感情の方が強い。日本代表はよりよいチームだし、勝つに値するチームだと思った。日本代表はスキルも高かったし、熱意とエナジーは我々よりも上回っていた」

 

隣に座っていたキャプテンのFLサム・ウォーバートン選手の表情も、勝者のそれではありませんでした。マン・オブ・ザ・マッチも日本代表NO8アマナキ・レレイ・マフィ選手。日本の方が上回っていた部分が多々あったことがこのことからも証明されています。

 

後半33分のアマナキ・ロトアヘア選手のトライ、34分のSO田村優選手のコンバージョンゴールで30−30。同点に追いついてからのラスト数分は、固唾を飲んでシャッターを切り続けました。そこから日本はノックオンなど不用意なミスで相手にボールをキープされてしまいます。そして敵陣まで攻めたウェールズのDG。勝たなければならない試合で決めたサム・デービス選手のキック精度を褒めるべきですが、それ以上にこの展開に持ち込んだ産声を上げて間もない新生日本代表を褒めたたえるべきでしょう。

 

試合後の日本代表ジェイミー・ジョセフHC、CTB立川理道ゲームキャプテンの会見です。

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──(日本メディア)今日の率直な気持ちは。

ジョセフHC「非常に残念です。大きなテストマッチ、ビッグゲームで、こういう試合を初めて経験する選手も多い中で最後の10秒で勝てていた試合に負けてしまったことは、非常に悔しい思いがあります。今回の試合で選手たちの力量がわかったところがあります。選手たちは自分たちのゲームプラン、仲間たちを信じて戦えました。ここ最近のラグビーで失われていたことが垣間見えたのではないでしょうか」

──(日本メディア)準備してきて上手くできたこととできなかったことは。どのあたりをもっとやれば勝てたか。

立川ゲームキャプテン「試合に向けて準備してきたことは常に相手にプレッシャーを与えていくというところは試合を通してできたと思います。あまりスコアも離されずにこちらもスコアを重ねていけたので、相手としてもプレッシャーがかかっていたのではないかと思います。最後勝ち切れなかったところいうのは、自分たちの攻撃したいエリアでアタックできなかったので、そこはディシプリンも含めて反省が残りましたけど、全体的には自分たちがやろうとしていることができていたのではないかと思います」

──(日本メディア)30−30の同点に追いついた時のチーム内の会話は。

立川ゲームキャプテン「舞い上がって自分の仕事を忘れるのではなく、しっかりと自分たち一人ひとりの仕事にフォーカスしてやっていけばもう一度自分たちにチャンスが来ると思っていたので、そこはチームに言い聞かせました」

──(現地メディア)80分通してウェールズはまったく機能していなかったと思うか。それともプレッシャーがかかっていたウェールズはそのような状況に陥ってしまったのか。

ジョセフHC「プレッシャーはかけることができていたと思います。相手がまったく機能していなかったと批判することは簡単で、日本は力量が足りなかったと言うことも簡単ですが、いずれもまったくそうではなかった。我々はほかの国と比べて特殊なゲームプランを持っています。それはどこからでも仕掛ける、自陣からでも回されると(相手)ディフェンスは混乱し始めます。混乱の中でプレッシャーが生まれます。そんな展開の中で自らプレッシャーがかかる負担が大きい展開ですが、そこで何が必要かというとリーダー陣がしっかりとチームを引っ張ることです。そこは立川がよくやってくれました」

──(現地メディア)前回対戦したウェールズと比べ今回の方が強いチームだが。

ジョセフHC「ウェールズのチームも国民も驚かすことができたと思います。しかし、ジョージア戦でも劣勢だったスクラムではプレッシャーを受けてしまいました。それは取り組みや意気込みが足りないからではなく、経験値が足りないだけです。テストマッチでしっかりと戦っていくためにはセットプレーが安定していないと戦えません。しかし選手たちはその劣勢のなかでも自分たちのゲームプランを信じて遂行しきってくれたと思います」

──(日本メディア)約74000人の観衆のなかで試合できたことについては。

立川ゲームキャプテン「素晴らしい環境のなかで素晴らしいチームと試合できましたし、この経験はこの先にもすごく生きてくると思います。経験値の若いチームなので、こうした経験を今後につなげていかないと意味がないものなってしまいますし、今日のこのようなたくさんの観客の中でパフォーマンスできたことは自信にしていいと思います。そこで舞い上がるのではなく、しっかりと自分たちを作り直して次の結果につなげたい。パニックになる選手、緊張している選手もおらず、落ち着いてプレーできていたと思います」

──(日本メディア)11月の3試合を通して満足している部分は。

ジョセフHC「新しいジャパン、(スローガンの)『ONE TEAM』で非常に素晴らしいスタートを切れました。当初は引退(昨年のメンバーから代表引退または現役引退した)選手が多く残念でしたが、それを払拭できるような新しいチームが作れたと思います。それは日本で行われてきたハードワークの甲斐あってのこと。アルゼンチン戦の大敗は準備期間が1週間しかなかったということもありますが、ジョージア戦ではそれから1週間で立て直して、今カーディフでもこのような戦いを見せられたことは、コーチとして見ると本当にうれしいです」

──(日本メディア)国歌斉唱の表情に緊張が見えたが。

立川ゲームキャプテン「国歌(斉唱)の時は少し緊張している部分もありましたが、自分自身を見失うようなところまではいっていなかった。チームに対しても僕自身が試合を楽しもうと言い続けてきたので、楽しむためにしっかり体を張ってチームのやりたいことをやるということは自分から発信してきたので。ワールドカップに近いような雰囲気でしたし、たくさんの観客が来てくれて、キックオフの直前から幸せだなという気持ちになっていました。みんなの顔を見ても自信のある顔をしていましたし、不安そうな顔をしている人もいなかったので、自分もすんなりと試合に入れたと思います」

 

世界と伍する力を付けつつある、すっかり頼もしくなった日本代表。今年を締めくくる欧州遠征最終戦は11月26日。フランス・ヴァンヌへと場所を移してフィジー代表と中立地で相見えます。

 

<取材・文・写真/齋藤龍太郎(楕円銀河)>

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