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【1000日後への道標】ヤマハ発動機vsサントリー「運命のファーストスクラム」

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勝者は歓喜し、敗者は涙をのむ。両チームの選手、関係者だけでなく、それぞれのファンも同じ心境だったことでしょう。ただ、いずれにしても日本ラグビー界として見れば、国内史上まれに見る「レベルの高い試合」(サントリー沢木敬介監督)は、ラグビーを愛するファン全員にとって最高のクリスマスプレゼントとなったのではないでしょうか。

 

2019年のラグビーワールドカップ日本大会開幕、その1000日前にあたる2016年12月24日(土)。ジャパンラグビートップリーグ2016-2017シーズンの優勝を大きく左右する対決、ヤマハ発動機ジュビロ(12節終了時1位・勝ち点57)対サントリーサンゴリアス(同2位・勝ち点56)の一戦がヤマハスタジアム(静岡県磐田市)で行われました。前節までいずれも12戦全勝、勝ち点の差はわずか1という頂上決戦は、シーズン最終盤ということもあり勝った方が優勝へ大きく前進する、まさに「天王山」でした。

 

結果はヤマハ発動機24-41サントリー(前半17-21)。5トライを挙げたサントリーが3トライのヤマハを撃破。勝ち点4を積み上げて総勝ち点60としたサントリーが首位に浮上、同57に踏みとどまり2位に転落したヤマハを置き去りに、優勝へ一気に近づきました。

 

試合後の記者会見でヤマハ発動機の清宮克幸監督、サントリーの沢木敬介監督、両チームの指揮官が揃って口にした試合のポイントは、意外なほど序盤の場面、前半15分のサントリーWTB中靏隆彰選手のトライの起点となったファーストスクラムでした。ヤマハから見て自陣右サイド、ゴールから10メートル付近でのマイボールスクラムを、サントリーの強力FWが押してターンオーバー。ヤマハのスクラムも強いことは周知の事実ですが、力の差を感じさせるサントリーの押しからFLジョージ・スミス選手がブラインドサイドを突いて前進。そこから右オープンへボールが渡っていき、最後はWTB中靏選手がトライを決めました。これでスコアは10-7。まだヤマハがリードしていたものの、実はサントリーにとっては大いに勝機を見出すことができた、逆にヤマハにとっては最後まで不安材料となってしまったビッグプレーだったのです。

 

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ヤマハボールのスクラムでしたが…。

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サントリーがターンオーバー!

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サントリーWTB中靏隆彰選手のトライにつながりました。

 

この場面について、ヤマハの清宮監督は、

「前半の10-0からマイボールスクラムを奪われたシーンですが、あのスクラムさえしっかり組んでいれば、マイボールをしっかりキープできていれば試合展開は大きく変わった」

と悔やみ、サントリーの沢木監督は、

「ファーストスクラムでうちのPR陣たちが、FW8人がまとまってターンオーバーできたのがヤマハさん(にとって)のダメージにつながった」

と手ごたえを口にしました。両指揮官の言葉からも、このスクラムが試合に大きく影響したことは間違いないでしょう(記者会見の模様は後述します)。実際、前半までは互角の勝負だったものの、後半はサントリーのアタックに終始。もちろんヤマハもたびたびチャンスを作り出し後半30分に1トライを返しますが、39分のサントリーFB塚本健太選手のトライがとどめとなり、前述の最終スコアでノーサイドを迎えました。

 

ポイントとなったファーストスクラム。スローで見るとFLジョージ・スミス選手はフロントローがフッキングするより早く足で触れた(フッキングした)ように見えましたので、微妙なプレーだったと言えるかもしれません。しかしこうしたギリギリのプレーが試合を決めることを、ラグビーをプレーしている当事者もファンも再認識できたのではないでしょうか。ブレイクダウンしかり、タックル後のジャッカルしかり、今なお世界屈指のFLであり続けているジョージ・スミス選手のプレーはいい手本になったと思います。

 

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トップリーグは年明けのラスト2節で終了。プレーオフはなく、リーグ戦の勝ち点で順位が決まります。サントリーが残り2試合とも勝てば優勝。ヤマハにはサントリーが2試合中最低1試合で負けるか引き分けない限り逆転優勝は舞い込みません。その意味で、2017年1月7日(土)の「府中ダービー」サントリーvs東芝は大一番となります。今季は不調の東芝ですが、長年のライバルであるサントリーの沢木監督は、

「うち(サントリー)とやるときはまた別の東芝さんだと思うので、しっかりと自分たちの準備をします」

と、相手の好不調にとらわれず試合に臨むことを明言しました。

 

次節で決まるか。最終節までもつれるか。トップリーグの優勝争いに引き続き注目しましょう。

 

■ヤマハ発動機ジュビロ記者会見

 

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清宮克幸監督

「頂上決戦ということで、もちろん準備も万端に、これで結果が出なかったら言い訳できないなというぐらいチームはいい状態だったのですが、ご覧のような結果になってしまったわけです。要因は何かというといくつかあるんですけど、自分たちの得意なフィールドに引きずり込めなかったというのがひとつありますね。サントリーのテクニシャンぶりに、ヤマハの少し経験のない若い選手が自分たちの力を出せなくされたという、そんな印象です。また、いくつかのシーンでマイボールスクラムとラインアウトをとれなかったことが非常に大きい影響を与えました。特に前半の10-0からマイボールスクラムを奪われたシーンですが、あのスクラムさえしっかり組んでいれば…まあ相手は反則なんですけどね(笑)、マイボールをしっかりキープできていれば試合展開は大きく変わったんじゃないかなと思っています」

 

FL三村勇飛丸キャプテン

「チームはしっかり準備できていたので、負けたことは非常に悔しいです。こちらから仕掛けたというよりは常に相手が先に動いていた印象があるのと、スクラムもラインアウトも獲得すべき得点につながるであろうエリアで何度もミスしてしまったことが本当に悔しい。ミスにも理由があると思うので、まだトップリーグの優勝もあと2戦負けるわけにはいかないですし、日本選手権にしっかりつなげていきたいので、次の2戦へと切り替えてしっかり準備していきたいと思います」

 

──(質問)後半に向けての指示は。

清宮克幸監督「後半は風上に立つということで心理的にも優位に戦えるはずでした。慌てずに一つ一つやっていれば、ペナルティーゴールも狙いながら詰めていけばよかったかなと少し思っていますけども。具体的な指示としては、ずっとヤマハのやりたいことをやらせないようにしている、されているシーンでいうと、ジョージ・スミス(サントリーFL)への厳しいチェックをもう一度修正しようとハーフタイムに指示しました。彼がヤマハにプレーをさせないプレーをしていましたので。彼にだけはペナルティーがないですから。これは何年か前の日本ラグビーと同じ現象です。彼の周りにはペナルティーがないですね。それが一つ指示としては大きなポイントでした。あとはディフェンスですね。自分たちのディフェンスを10点満点とするならば今日は2、3点でした。やろうとしてきたことがディフェンスでは全くできませんでした。それももちろんハーフタイムに指示して、後半多少はよくなりましたけど、前半は特にディフェンスがひどかったですね」

 

──(質問)PGを狙ってもいい場面があったが。

FL三村勇飛丸キャプテン「前半、ラインアウトで相手が反則してペナルティートライにつながった場面があったので、点差もそんなに開いていなかったこともあって5点または7点が欲しかったということです。そこで冷静になれていれば少し(流れが)変わったかもしれません」

 

──(質問)スクラムがサントリーの強みに見えたが。

FL三村勇飛丸キャプテン「いや、強みというより…」

清宮克幸監「反則なんですよ。反則されているんです。それを『テクニシャン』と言ったわけです」

 

■サントリーサンゴリアス記者会見

 

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沢木敬介監督

「好調のヤマハさんに勝つことができて、自信になると思います。今日の試合はお互いのカラーが出た非常にブレイクダウンだったりディフェンス、コンタクトエリアもそうですけど、非常にレベルの高い試合でした。でも、まだ2試合残っています。この勝利の価値を出すためにも、残りの2試合しっかり勝てるようにまた来週から準備していきたいと思います」

 

SH流大キャプテン

「今日の試合は1位のヤマハさんにチャレンジャーとして僕たちが向かっていくだけだったので、それができてよかったと思います。監督も言ったようにこの勝ちを自信にして、また次に向かっていきたいと思います。また、アウェーということでヤマハファンがすごく多かったんですけど、サントリーファンもすごく(たくさん来てくれて)声援をくれたことも力になったので、それも含めていいラグビーがこのスタジアムでよかったなと思います」

 

──(質問)スクラムの評価は。

沢木敬介監督「もっといけたと思います。ただ、ヤマハさんに対して最初のファーストスクラムでうちのPR陣たちが、FW8人がまとまってターンオーバーできたのがヤマハさん(にとって)のダメージにつながったと思います。非常にいい、まとまりのあるスクラムでした。後半はいろいろな兼ね合いもあって上手くコントロールできなかったですけど、悪くはなかったと思います」

 

──PR須藤元気選手、FB塚本健太選手の起用について。

沢木敬介監督「元気に関して言えば、みなさんご存じのように本当に経験のあるハタケ(PR畠山健介)もいますしいろいろな状況に対応できる選手なので(リザーブに置いて)、須藤は純粋に強いんですよね。あれでスクラムが弱かったらおかしいという体型をしているんですけど(笑)、本当に純粋にスクラムが強いので、スクラムが強みのヤマハさんに対抗するために今日は先発に須藤を使いました。塚本に関して言うと、本当に能力が高い選手なんですよね。ここにきてやっと自信を持ったプレー、チームの勝利に貢献できるプレーができたと思います」

 

──(質問)FLジョージ・スミス選手、CTBスティーブン・ドナルド選手の活躍について。

沢木敬介監督「ジョージはもちろんワラビーズ(オーストラリア代表)の代表的な選手ですし、スティーブンも自分たちの望むパフォーマンスで今日もいい仕事をしてくれたと思います」

 

──マン・オブ・ザ・マッチのSO小野晃征選手については。

沢木敬介監督「晃征は今シーズン、調子がいいです。少し細かく考えすぎるところがあるのですが、今年はシンプルな考えですごくゲームを理解して自分たちの良さを引き出すようなゲームコントロールをできていると思います。エディー(・ジョーンズ前日本代表HC)のプレッシャーがなくなったからでしょうか(笑)」

 

──BKのテンポがよかったが、心がけたことは。

SH流大キャプテン「外側にスペースがあったので、そこを早く攻めようとしました。FWフェーズをこだわるよりもBKのスペースが空いていると思ったので、そこに早くボールを回すことはしました」

 

──ブレイクダウンのところでの意識は。

沢木敬介監督「ヤマハさんはボールに対してすごくファイトしてくるチームなので、自分たちでできるところはしっかりと自分たちがオフサイドラインを明確にするぐらいの精度でブレイクダウンを支配するということを先週から(練習で)やってきました。しかし精度が落ちてしまうと絡まれるケースも多々あったので、自分たちのスタンダード、感覚を引き上げてくれる試合でした」

 

──ディフェンスでもヤマハのペースにさせなかったが。

SH流大キャプテン「それはもう、僕らのプライドであるハードワークです。そこで絶対にヤマハを上回らないとパワーで来られてしまう。そこで僕らはタックルして、起きて、動いて(プレーしました)。そこは完全にプライドです」

 

■選手のコメント

 

・サントリーSO小野晃征選手(この試合のマン・オブ・ザ・マッチ)

 

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「出ている23人だけではなく、クラブとしてここまでやってきたことに自信を持って(臨みました)。両チーム全勝ということで周りからは騒がれましたが、特別なプレーをするわけではなく、ここまでやってきたことをやりきるということだけでした。今日のプレーを見ても特別なことはしていませんし、チームでトライを獲って、チームでディフェンスして、お互い助け合って戦った80分でした。FWもセットピースをがんばってくれましたし、トライにつながったプレーもチームでしっかりボールを動かした結果なので、80分間集中を切らずに、苦しい時間帯もあった中で勝てたかなと思います」

 

・サントリーFB塚本健太選手

 

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「幸太朗(FB松島)のけがはありましたが、1週間でしっかり準備できたので、問題なくプレーできました。スペースの空いているところに(ランで)行けということはずっと言われていますので、(今日の試合は)それを意識しました。前半ミスがあったので、引きずらないように切り替えてやれたのかなと思います。(風が強い中で、ハイボールキャッチは)ひとりでせずにみんなで助け合おうと言っていました。プレッシャーはすごくありました。1週間ずっと考えていました。これを落としてしまったら優勝はないと思っていましたが、とにかく目の前の試合を勝とうということでやってきました」

 

<取材・文・撮影/齋藤龍太郎(楕円銀河)>