勝利を自信に、敗戦を糧に──ブルーズに圧勝のサンウルブズと日本ラグビーの未来

4月8日にわずか1点差で勝利したブルズ戦を除き、開幕から惜敗と完敗を繰り返し、第16節終了時点で1勝13敗(勝ち点7)でスーパーラグビーのリーグ全体最下位に沈んでいた2シーズン目のサンウルブズ。

 

互いの実績、実力を考えれば勝利を期待することは決して現実的とは言えなかった7月15日(土)最終節のブルーズとの一戦、サンウルブズの圧勝を予想できた人は世界にどれぐらいいたことでしょう。ブルズ戦のように僅差で勝つという「希望的観測」を持っていたサンウルブズファンの方は多かったかもしれません。しかし圧倒することまでイメージできていた人は、サンウルブズの選手やコーチ・スタッフ陣を含めてもごく少数だったのではないでしょうか。

 

今季のサンウルブズはニュージーランドのチームとは初対決で、このブルーズとも当然初顔合わせとなりました。サンウルブズはわずか7点差で敗れた(27-20)チーフス戦以外は完敗という内容でしたが、試合の条件やコンディション、展開次第ではまったく相手にならないわけではない、そういうレベルの試合はできていました。

 

ただ、勝利を望むには、スーパー12(現スーパーラグビー)開幕年の1996年、翌シーズンの1997年を含めこのリーグを3度制したブルーズは、近年低迷しているとはいえ強豪です。第16節終了時点で7勝1分け6敗(勝ち点37)と今季もニュージーランドカンファレンス最下位が決まっていましたが、本来キャプテンであるニュージーランド代表81キャップのFLジェローム・カイノ選手はリザーブに、他にもゲームキャプテンのHOジェームズ・パーソンズ選手らオールブラックスのキャップホルダーを数多くメンバーに並べるなど、CTBソニー=ビル・ウィリアムズ選手の欠場(オールブラックスvsブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦でのレッドカードによる出場停止処分)を除けば、隙らしい隙はほとんどありませんでした。

 

対するサンウルブズも、7月以降ゲームキャプテンを務め続けてているNO8ヴィリー・ブリッツ選手、またスーパーラグビー初先発となった若きPR具智元選手、LOとして定着した谷田部洸太郎とヘル ウヴェ両選手のパワフルなツインタワー、前節ベスト15に選出されたFL松橋周平選手、SH内田啓介とSO田村優両選手のハーフ団、決定力のあるWTB福岡堅樹、攻守において欠かせない存在のCTBティモシー・ラファエレ、ウィリアム・トゥポウの両選手が久しぶりに顔を揃えました。

 

正午過ぎ、うだるような暑さの秩父宮ラグビー場にキックオフのホイッスルが鳴り響きました。わずかな失点が勝利の芽を摘んでしまうサンウルブズとしては当然試合の入りが重要。先制点が欲しいところでしたが、序盤はブルーズのペースで進みます。ニュージーランドらしいスピーディーな展開に持ち込むと、前半9分にゲームキャプテンのHOパーソンズ選手が、13分にはLOジェラード・トゥイオティマリナー選手が立て続けにトライを決めます。

 

サンウルブズ0-14ブルーズ。喰らいついていきたいサンウルブズは前半17分、敵陣でブルーズのペナルティーからSH内田選手がクイックリスタート! その後もフェーズを重ねたサンウルブズはラックから内田選手のパスを受けたCTBラファエレ選手がインゴールに潜り込み、チーム初トライ。7-14とします。

 

負けられないブルーズも前半26分、FBマイケル・コリンズ選手がサンウルブズSO田村選手のパスをインターセプトし独走トライ。7-21とリードを広げますが、サンウルブズはペースを乱しません。前半終了間際の39分、WTB松島幸太朗選手が見事なランでゲインを切り、途中出場のFL徳永祥尭選手につないでそこからラストパスを受けたSH内田選手がトライ。前半終了時点で14-21と、サンウルブズが7点差に迫りました。

 

FL徳永選手からSH内田選手へパスがつながりトライ。後半に向けて弾みを付けました。

FL徳永選手からSH内田選手へパスがつながりトライ。後半に向けて弾みを付けました。

 

後半もサンウルブズは開始直後からリズムよくアタックを仕掛け続けます。わずかなミスやペナルティーでチャンスを逸してしまう展開が続きましたが、後半14分、ついにスコアが動きます。ターンオーバーからCTBトゥポウ選手がインゴールに迫り、ブルーズの選手ともつれてこぼれたボールを追走していたCTB山中亮平選手がグラウンドに押さえ、TMOの末にトライが認められます。スコアは19-21。ビハインドはわずか2点差になりました。

 

すると後半17分、ブルーズの柱であるFLカイノ選手がハイタックルでシンビンとなり、ここからの10分間でさらにサンウルブズの攻勢に拍車がかかります。19分、サンウルブズはそのペナルティーからタッチキックでラインアウトモールを組み、ブルーズのインゴールに迫ります。ブルーズはたまらずモールを崩し、崩さなければトライになっていたとレフリーが認定しペナルティートライ。サンウルブズは26-21とついに逆転に成功します。

 

続く後半24分、途中出場のSH茂野海人選手が敵陣ゴール前ラックからサイドを突いてトライ。31-21とリードを広げ、29分にはブルーズの連係ミスによりこぼれたボールを再びSH茂野選手が前方に蹴り出し、自ら拾い上げインゴールへ突進します。オールブラックス6キャップのブルーズCTBレネ・レンジャー選手に追いつかれたところで、茂野選手は右後方を追走していたCTBラファエレ選手にパス。ラファエレ選手が無人のインゴールへ豪快にダイビングトライを決めると、スコアは36-21となりました。

 

トライの起点となったSH茂野選手の好判断。左は追うブルーズのレネ・レンジャー選手。

トライの起点となったSH茂野選手の好判断。左は追うブルーズのレネ・レンジャー選手。

 

残り約10分で15点差。2トライ2ゴールを許しても追いつかれない点差となりますが、ダメ押し点が欲しいサンウルブズは最後まで攻撃の手を緩めませんでした。試合終了間際の36分、ブルーズ陣ゴール前からのキックをチャージしたCTBラファエレ選手が自らグラウンディングし、43-21。ラファエレ選手はこれが3トライ目、ハットトリック達成となりました。

 

そして最後は39分、途中出場のSO小倉順平選手のキックパスをワンバウンドでキャッチしたFL徳永選手が、ブルーズFLカイノ選手ら3人のディフェンス陣を振り切りトライ。48-21としたところでノーサイドの瞬間を迎えました。

 

試合の最後にダメ押しとなるトライを決めて歓喜するサンウルブズ。右はブルーズFLカイノ選手。

試合の最後にダメ押しとなるトライを決めて歓喜するサンウルブズ。右はブルーズFLカイノ選手。

 

ペナルティートライを含め計8トライを挙げたサンウルブズの圧勝でした。48-21で3トライのブルーズから歴史的初勝利をもぎとり、ボーナスポイント含め勝ち点5を獲得する快挙を成し遂げました。冒頭でも記述したとおり、ここまでの大差を予想できた人は決して多くはなかったでしょう。ホームや気温の高さなどサンウルブズにとって有利な条件が大きなアドバンテージになったことでしょう。ただ、ブルーズのゲームキャプテンHOパーソンズ選手は「ラグビーの醍醐味であるぶつかり合いの部分がサンウルブズは明らかに良かった。(暑さについては)影響はあるが2週間滞在していたので、なおさら言い訳はできない。ブルーズのジャージーを着た時点でそう言うことは許されない。試合に向けた準備や姿勢が大きな要素であることを、あらためて身をもって知った。私たちはそれが十分でなかった」と、暑さなどの影響をきっぱり否定し、フィジカル面、メンタル面を敗因として挙げました。

 

有終の美に喜びを爆発させるサンウルブズのフィフティーン。スタンドも大いに沸いた。

有終の美に喜びを爆発させるサンウルブズのフィフティーン。スタンドも大いに沸いた。

 

母国の強豪、それもオールブラックスの戦友であるタナ・ウマガHCが率いるブルーズに圧勝しシーズン終了を迎えたサンウルブズのフィロ・ティアティアHCは、快挙をかみしめながら会見に応じました。

 

試合後の記者会見。左からサンウルブズNO8ブリッツ、ティアティアHC、渡瀬CEO。

試合後の記者会見。左からサンウルブズNO8ブリッツ選手、ティアティアHC、渡瀬CEO。

 

「南アフリカツアーから帰ってきて、チームとしてたくさんの学びがありました。そこで、ゲームプランもクリアに落とし込み変化を与えました。それが(いい)影響を与えたのだと思います。今日の(素晴らしい)パフォーマンスも振り返らなければならないし、ネガティブなことも振り返らなければなりませんが、まずは今日の勝利を(みんなで)分かち合いたいです。親友であるブルーズのHC(タナ・ウマガ)とも分かち合いたいですし、世界一の(サンウルブズの)ファンとも分かち合いたいですね」

 

そして、会見に同席したゲームキャプテンのNO8ブリッツ選手は、

 

「このシーズン、素晴らしいサポートをありがとうございます。今週はサンウルブズのプライドを取り戻そうと一人一人が戦いました。誇りに思います。ディフェンスにフォーカスした1週間でした。ブルーズのアタックがとてもよかったのですが、選手がタフにやってくれました」

 

ブルーズの記者会見。左からHOパーソンズ選手、ウマガHC。

ブルーズの記者会見。左からHOパーソンズ選手、ウマガHC。

 

オールブラックスのレジェンドの一人で、ブルーズのタナ・ウマガHCはこのようにコメントしました。

 

「サンウルブズの素晴らしいプレーを讃えたい。勝ちに値する試合だった。コーチ、スタッフが来シーズンを見据えて努力したことの表れだろう」

 

サンウルブズを褒めざるを得ない、完敗を認めざるを得ない内容の試合でした。

 

この結果、サンウルブズは初のシーズン2勝目(13敗)、昨季の1勝1分け13敗という成績を上回って有終の美を飾ると同時に、総勝ち点を12として全体最下位から脱しました(最下位は勝ち点9のレベルズ)。成績だけ見ればわずかな前進だったかもしれませんが、確実に進歩していると言い切れる内容でした。特にこの最終戦で見せたラグビーは必ずや国際的競技力の向上と自信につながり、来季以降のサンウルブズ、ひいては日本ラグビーの未来に好影響をもたらすことは間違いないでしょう。13敗を喫したものの敗戦数が多いぶん、糧になる部分も多いことはプラスにとらえることができます。

 

サンウルブズ渡瀬CEOは試合後、「サンウルブズがスーパーラグビーで成功することは日本代表にいい効果をもたらしますが、サンウルブズが日本代表のためだけの存在である必要はありません。もう少し具体性を来季に向けて詰めていきたいです」と語りました。

 

ファンへの感謝をこめて挨拶。最高の締めくくりとなった。

感謝を込めてファンに挨拶。最高の締めくくりとなった。

 

たしかにサンウルブズ自体の強化やブランディングはチーム運営の上での最重要課題でしょう。ただ、2019年のラグビーワールドカップ日本大会まであと2年という現状においては、サンウルブズと日本代表の強化がリンクしていくような取り組みを加速してほしい。ブルーズ戦の勝利がワールドカップに活きるような道筋を作ってほしい。個人的にはそう願っています。

 

<取材・文・撮影/齋藤龍太郎(楕円銀河)>

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